陽だまりの林檎姫
そう口にした後で甦る北都との記憶。

豪華なものに囲まれても何一つ感情を見せなかった、それどころか嫌っていたのは自分の物ではなかったからだろうか。

いつかは手元から無くなってしまう物ばかりだったからだろうか。

特別扱いされる事を嫌がり、必要以上に人とも物とも関わらないようにしていた。

北都の表情や言葉、冷たく吐き捨てるような言葉の数々はどんな気持ちから来ていたのだろうか。

全て最初から期限付きだと分かっていたから。

「あの2人は…血の繋がった、本当の親子なんでしょう?」

認めたくない気持ちが心を揺さぶって声を震わせる。

栢木の言葉に強い反応を示したマリーは周囲を確認すると栢木の手を掴んで北都の書斎へ入った。

「栢木、貴女その事を知っていたの?」

「その事って…2人が実の親子だということ?」

栢木の言葉にマリーは力強く頷いて答える。

「社長が昨日教えてくれた。自分たちは血の繋がった実の親子だって…かつての恋人との子供だって。」

「…ラズレリアさんという方よ。」

「マリー知ってるの!?」

「ええ。私は千秋様が幼い頃からこの家に仕えているから…何度かお見かけしたこともあるの。黒い髪が美しい方で、とても物腰柔らかな素敵な女性だった。医師を目指されていると言っていたわ。」

母は医者だった、そう言っていた北都の姿を思い出してマリーの話に重ねた。

この話は本当だ。ラズレリアという女性は北都の母親であると栢木は息を飲む。

「千秋様は旦那様と奥様が願いに願って出来た待望の嫡男で、特別な愛情と教育をされていたの。それはお2人がもう若くなかったということもあったと思うわ。」

語りだしたマリーの声に栢木は集中して耳を傾けた。

なかなか子供に恵まれなかった千秋の両親は40を過ぎてようやく授かった子供である千秋をとても大切に育てたという。のちに生まれた妹にも惜しみない愛情を与えるが、跡取りともなると接し方はまた変わったようだ。

それでも自由に、千秋の意思を尊重しながら育てていたのだと近くで見ていたマリーも知っていた。
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