陽だまりの林檎姫
学びたいと主張した薬学についても認め、励む息子を応援したらしい。

恋人との交際も同じだった。

しかしそれはあくまで学生であるということと、未来につながる話ではないという前提だ。

千秋は相麻家が代々行ってきた不動産業を継ぐことは決まっており、また伴侶となる人物もそれなりの利益がある相手から選ばれることも決まっていた。

故にラズレリアとの結婚は認められず、千秋自身も深めていきたいと願っていた薬学を奪われてしまったのだ。

「全てを捨ててラズレリアさんと共に生きたい。千秋様はそう私に仰っていた。…おそらくそうなさるおつもりだったんでしょう。でも、そうはならなかった。」

「…どうして?」

「ラズレリアさんが自ら身を引いたのよ。」

切ないマリーの声に栢木は思わず視線を泳がせてしまった。

自分のせいで千秋の人生が狂ってしまうと考えたラズレリアは千秋の前から姿を消したのだ。

勿論それで納得するはずのない千秋は彼女を探し続けた。

父親の後を継いでも諦めきれず、ずっと彼女を追い求め続けていたのだ。

しかし千秋との思いは他所に運命は残酷にもその気持ちの終わりを告げてきた。

千秋の父親が病に倒れ、遺言とも取れる最後の願いを申し出てきたのだ。

それがとある令嬢との結婚だった。

父の最期の願いを聞き遂げない訳にもいかず、千秋は令嬢との結婚を決めて式を挙げる。

幸せそうな両親を見てもどこか影を背負った千秋の姿は見ていられないほど切ないものだったとマリーは涙を浮かべた。

しかし2人の間になかなか子供は授からなかった。

それは結婚する前に千秋が奥方に告げたことも要因ではあるのではないかとマリーは感じていたのだ。

忘れられない女性がいると、そう奥方に告げているのをマリーは聞いてしまっていた。

それでも構わないと答えた奥方は結婚の話を進めるように願い出たという。
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