陽だまりの林檎姫
書斎に差し込む光に包まれて、北都を思いながらこの先を考えた。

もうこの屋敷には居られないのだと、栢木はその目に力を宿す。

ならば。

栢木は手紙と新聞を手にすると勢いよく立ち上がり書斎を後にした。

進むべき道はもう既に選んでいるのだ。

「栢木?」

心配で戻ってきていたマリーと廊下で鉢合わせした。

栢木の手には大きなカバン、服装も近場に行くようなものではない。

「ごめん、マリー。私行ってくる。」

「行くって…?」

「北都さんの所。」

栢木の言葉にマリーは両手で口を被い驚きを表した。

次第に緩んでいく表情は栢木の決意を喜んでいる。

「ええ、ええ!そうしてちょうだい。」

マリーの後押しに元気と勇気を貰った栢木は笑みを浮かべると大きく頷いた。

「じゃ。」

「あ、待って!栢木、馬車を使いなさい。」

「ああ、いいの。駅までは走ればそんなに時間はかからないし。」

「いいえ。馬車を使って北都様を探してらっしゃい。相麻家の馬車で北都様に会いに行くのよ。」

そう言うなりマリーは栢木の腕を強く掴んで有無を言わさずに歩き始める。

今まで見たことが無いマリーの押しの強さに圧倒されて栢木は上手く反応するまでに時間がかかってしまった。

「え!?ちょっ…それは駄目でしょ!」

「構わないわ。ダンを呼んで!」

近くにいたメイドに指示をするとマリーはそのまま玄関の方へと突き進んでいく。

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