陽だまりの林檎姫
前を歩く人物は社内でもキレ者と言われる社長の側近の三浦、愛想もよく物腰柔らかな事から女性社員のほとんどは彼の虜になっている魅惑の独身男性だ。

今の言葉で多くの女性の乙女心もくすぐっているのだろう。

そんな人物からお褒めの言葉をもらえて光栄なことだが栢木にとっては少し迷惑でもあった。

こういった言葉でどんな反応を示すかぬきうちテストでもしているのだろう、それぐらいの気持ちで構えている。

「ありがとうございます。」

表面上は何でもないと言ったように、しかし内心はとても落ち着いてはいられなかった。

どこを採点されているかが分からない。

顔がいいキレ者なんて危険人物以外の何者でもないのだ。

北都も待っているだろうし貰うものを貰ったら速やかに退散したいのが本音である。

「あの北都さんとここまで長く続いているは栢木さんが初めてです。本社でも栢木さんの評価はすごく高いんですよ。」

それは聞き慣れた言葉で特に何にも反応しなかった。

それに実際はそうではないという事は本人が一番よく知っている。

栢木が三浦といて落ち着かないのはやたらと褒め言葉を貰うことも原因の1つだった。

次に来るであろう言葉も分かっている。

「栢木さんには皆が期待してるんですよ。」

思った通りの言葉に栢木は苦々しく笑った。

早く終わらせるには有り難く受け取った方がいいことも分かっているのだ。

「ありがとうございます。」

これからの栢木に期待しているのは誰よりも自分自身だと静かに心を燃やす。

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