陽だまりの林檎姫
この家はこんな匂いだっただろうか。

「ああ、お嬢様。こんなに細くなられて…さぞかしご苦労を。」

「トキ…泣かないでよ。」

「いいえ!いいえ!!これもすべてキリュウ坊ちゃんの我儘のせいかと思うと、顔を見るたびに花瓶を投げつけたくなるんです。」

「キリュウさん、よく来るの?」

「謝罪と銘打ってよく旦那様の所にいらしてます。旦那様が呼んでいるとも言われていますが本当かどうか!」

よほどキリュウが憎たらしいのかトキはハンカチを口に咥えそうな勢いで憤りを表した。

キリュウがタオットに会いに来ているという事は病状はいいのだろうか。

関係は元に戻ったのだろうか、そんな疑問を抱きながらも書斎の前に到着した。

「旦那様、お嬢様がお戻りです。」

「来たか!」

扉を叩いて声を投げると中から喜びの声が聞こえてくる。

トキが扉を開けば、部屋の中にはタオット以外にも母や兄、弟と家族全員が顔を揃えていた。

「アンナ!!」

一番最初に声を上げて飛び込んできたのは母である桔梗だ。

両手を広げて栢木を抱きしめ、その胸にしかと留めるように力を込めた。

「母様、心配かけました。」

「いいのよ。無事でよかったわ。」

何度も頭を撫でる母の手が心地よくて照れくさい。

「よく戻ったな。」

「キース兄様、ユーゴ、ただいま。」

集まってきた家族1人1人の顔を見ながら笑みを浮かべて言葉をかわす。

そして奥の机の前で立つタオットに目を向けて栢木は歩き出した。

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