陽だまりの林檎姫
「なに?」

「いや。彼の噂はここまで届いているからね、どんな人かと思ってさ。」

「直向きな人よ。尊敬してるの。」

そうか、そう答えてキースは嬉しそうに微笑んだ。

ユーゴがキースを肘でつついて同じ様に笑みを浮かべる。

「そういやキリュウが謝りに来たぞ。正式に縁談の話も無くなりこれでもう一安心だ。」

満足そうに笑うタオットの横で不機嫌そうに桔梗が紅茶を口にした。

「さんざん迷惑をかけておいて本当、どういうつもりかしら。聞いてくれる?キリュウったらタオットに会いにこの家に遊びに来るのよ?大人しく病院にいればいいのに!」

「母様は顔を見るたびにカンカンに怒ってな。ハリセンで毎回キリュウを叩いて回ってるんだ。」

「もう止めてあげればいいのにさ。」

「貴方たちだって叩いていたじゃないの。」

「俺たちは最初だけでしょ。そりゃ振り回されたんだ、一発位殴らせてもらわないと腹の虫が治まらないよ。なあ、兄さん。」

「母様は毎回だもんな。あれでも一応病人だからさ。」

母と兄弟の掛け合いだけでキリュウとのやり合いが想像できる。

文句を言いながらもちゃんとお茶の準備をして迎えてあげているのだろう、桔梗とはそういう人だと栢木は懐かしい感覚に笑った。

「父親とやりあってるんだそうだ。今まで従順に父の意見を受け入れていた息子が急に反旗を翻したと兄貴は大騒ぎしているんだと。親子喧嘩をしてはその愚痴を言いにキリュウは私に会いに来てるんだ。」

「キリュウさんも吹っ切れたのね。」

「これからが大変だけどな。ようやくあいつも自分らしく生きることに腹を括ったらしい。桔梗のハリセンをくらう覚悟もな。」

「それくらい可愛いモノでしょう!?」

目を細めて睨みを利かしながら桔梗は怒り任せにクッキーを口に運んでいく。

「治療は順調に進んでいるそうだぞ。」

「それは良かった。」
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