陽だまりの林檎姫
「大きな決意で私を守ろうとしてくれてありがとう。でも父様、私は親不孝をするかもしれません。」

「親不孝?」

「もう一度家を出ることを許して欲しいの。」

栢木の言葉にタオットは目を見開く。

「追いかけたい人がいる。私はその人の所に行きたい。…だから、栢木の名前を置いていこうと思っています。」

「ほう…。」

「行かせてください。」

そう言ってゆっくり頭を下げると栢木は静かに目を閉じてタオットの言葉を待った。

どう返されるか正直想像がつかないのだ。

怒られるのだろうか、諭されるのだろうか、笑われるかも呆れられるかもしれない。

子供の戯言だと取り合ってくれないかもしれない。

「相手の名前は何という。」

「え?」

タオットの声に誘われて栢木は頭を上げて目を合わせた。

「何だ、相手というのは男なんだろう?まさか女か?」

「え、いや。男の人だけど。」

まさか話を掘り下げてくるとは思わなくてすぐに反応出来ない。

こんな反応は予想していなかったから驚いたが、栢木は一度深呼吸をするとタオットの問いに答えるべく背筋を伸ばした。

しっかりと話をしたい。

「相麻北都さんです。」

「そうか。…お前が世話になった人だな。」

「はい。」

北都の名前を出すだけで栢木の脳裏にいくつもの思い出が駆け巡った。

< 296 / 313 >

この作品をシェア

pagetop