陽だまりの林檎姫
「私は北都さんを憐れんでいるつもりはありません。その心の強さには感心してるくらい。」

「それは彼も言っていたよ。アンナは芯が強い女性だとな。」

「庶民的な奴だってずっと言われてた。」

いつかのやりとりを思い出して栢木がそう付け足せばタオットは愉快だと笑う。

「お前はタクミに北都くんを鳥の様な人だと言ったらしいな。」

それはいつかの記憶だ。

「飛べるのに飛ぼうとしない鳥、それを彼に伝えたら彼はこう言ったよ。」

「何?」

「アンナは北都くんにとって金色のリンゴだそうだ。」

決して食べてはいけないと神が伝えた禁断の果実、知恵を与えたそのリンゴは結果として人間に進化を与えた。

北都はそれにかけて自分に進化を与えた女性だと続けたらしい。

「しかし自分にとっては泡のように儚く消えゆく貴い存在だとも言っていた。触れることさえも躊躇う程に。」

「そんな…。」

「黄金の禁断の果実。決して手を出してはいけない高嶺の花。彼はそれでもお前の手を取りたいそうだ。」

悲観しそうな瞬間に与えられたタオットの言葉は栢木に明るい道筋を与えてくれた。

「まだまだ未知の可能性を持つ鳥は大空へ羽ばたくらしいぞ、アンナ。彼はワタリ公爵の領内で薬草園を作り植物学を深めるそうだ。」

「薬草園?」

「お前が興味を持っていた光学の話を聞いて思いついたらしい。薬効の強い植物を育てる為の研究をしながら学位も取得すると言っていた。」

北都の未来が見えた気がして栢木の目に輝きが増していく。

飛べるのに空を見上げてばかりいた鳥はようやく大空へ向かって飛び立ったのだ。

それが分かるなり栢木の心が震えた。

嬉しくて涙が浮かぶ。

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