陽だまりの林檎姫
ワタリと出会ってからは会う度に自分の所で研究を続けろと言うワタリの誘いを断っていたのだが、栢木と関わるうちにその考えを改めるようになったのだ。

そうして北都の今がある。

「ただいま、何か変わったことは?」

「薬草に関しては何もありませんよ。」

「関して?」

北都が研究施設内の自席に荷物を置けば、それが合図と言わんばかりに助手の学生は身支度を始めた。

確かこの後の予定では日暮れまで薬草管理にあたる筈だったのにと北都は学生の言葉も合わせて首を傾げる。

またワタリが気まぐれに現れて無茶なことを投げてきたのだろうか。

「先生に来客です。」

「来客?」

「お茶を出そうとしたんですけど断られたので出してません。必要であれば先生が出して下さい。では僕はこれで。」

「は?ちょ…仕事は?」

荷物をまとめ終わりカバンを背負った学生は爽やかな笑顔で挨拶だと手を挙げた。

しかし全く状況を把握できていない北都には何が何だか分からないまま放置されるようなものだと、必死に説明を求めてみる。

「ワタリ公爵から帰るようにと指示がありました。仕事は…先生も今日はいいんじゃないですか?」

「ああ?」

「多分まだ薬草園を見学されてると思うんで、行ってきてください。じゃ、お疲れ様でした。」

「ちょ…っおい!」

いつになく強引に話を切り上げて出て行った学生は北都の言葉に一切耳を貸そうとしなかった。

一体何だと言うのだろう、いきなりの反抗期かと思いたくなる位に学生の態度がいつもと違う。

まるで悪戯を仕掛けた子供の様に終始笑顔だったことが気持ち悪かった。

「…ったく。何なんだよ。」

また前みたいに取材に答えろと強引に送り込んだのかもしれない、そう考えるだけで北都は頭が痛くなった。
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