陽だまりの林檎姫
さっきタータンにも報告したが最近後遺症は治まって薬を飲む頻度がかなり低くなったと思す。

頭の痛みを感じるなんて久しぶりだと思い返すがそれも今はどうでもいい話だ。

「はあ…。」

盛大なため息を吐いて白衣に袖を通すと北都は薬草園へと向かって行った。

薬草園に行くのであればついでにやりたいこともある、記録用の冊子を手にして道中で支度を整えながら薬草園に繋がる柵を開けた。

屋内と屋外を管理しているがその来客とやらはどこにいるのだろう。

完全に昼食を取り損ねたと不機嫌になりながら北都は屋内の施設へと的を絞った。

次からは取れるなら食事は外で取ることにしよう。

取材であれば研究中の方を目指していく筈だ、その北都の読み通り屋内施設の扉は開いており中に人の気配がするのを感じた。

研究施設内を自由に歩かせるなんてどれだけ無用心なのだと留守を任せていた学生に文句をいいたくなる。

下手に触られていないといいが、そんな思いで待ち人に近付いていった。

「お待たせして申し訳ありません。」

少し声を張り気味出せば、人影が大きく揺れたのが分かった。しかし北都は構わず声をかけ続ける。

「この施設の管理を任されています、相麻北都と…。」

屈んでいた人影は北都の声が聞こえるなり立ち上がり振り返った。

その人の顔を見た瞬間に北都は声を詰まらせ言葉を止めてしまう。

「え…っ?」

互いに目を大きく開いてその姿を焼き付ける様に見つめ合った。

少しの沈黙、先に笑ったのは北都ではなかった。

「こんにちは、栢木アンナと申します。」

覚えのある香が鼻をかすめる。

声も姿も少し懐かしく思えたが、かつては当たり前の様に傍に居た存在だと全身が覚えていた。

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