陽だまりの林檎姫
「ありがとう。」

扉を開けて御者にお礼を言うなり栢木は軽やかに馬車から降りてくる。

さあ、待ち人の下へ行こう、そう思って歩きだした時だった。

「栢木!」

屋敷に着くやいなや、血相を変えたマリーが栢木を出迎え緊張が走る。

何かあったのだ、空気だけで感じた事態に栢木の表情と強張った。

「マリー、何かあったの?」

「ごめんなさい、北都様が出掛けてしまって。」

「え?」

北都の身に何かあったのか、次はその心配に襲われ身構える。

「何か問題でも…。」

北都が何か問題を抱えてしまったのかとマリーに問いかけるが、全てを言い終わる前に遮ってマリーは首を横に振った。

「多分、予定があったのだと思うの…。」

マリーの言わんとすることを感じ取って栢木の表情が曇る。

栢木が本社に向かった後に北都もいつものように準備を整えて馬車で出掛けたとマリーは簡単に説明をした。

そう、いつも通りにと。

その言葉を聞いて、栢木はああ、そういうことかと不思議と腑に落ちたのだ。

「そっか…。」

事実を受け入れた意味で現状を口にした。

高まっていた気持ちは次第に薄れ、心も目も曇っていく。

「出かけたのか。」

手の中にある封書を見つめて苦笑いをした。
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