陽だまりの林檎姫
ようやく自由に羽ばたけたのだと嬉しくて仕方がない。涙が止まらない。

「…良かったです。」

その言葉につきた。

それ以上の言葉が思いつかないくらい栢木の気持ちは満たされ震えている。

何度も涙を拭いながら微笑みを浮かべると栢木は何度も頷いてみせた。

「ワタリ公爵の好意でこの研究施設を使えることになった。1回目の観測が終わってとりあえずの目処がつく。」

「はい。」

「論文も大学に提出して、審議が終われば称号が貰えるかどうか分かる。」

「はい。」

「博士号をもらえたら…そうしたら…今度は俺が栢木を迎えに行くつもりだった。」

タオットから聞いていた北都の言葉を思い出し、また涙が込み上げて言葉がつまる。

止まらない涙と懸命に闘っていると、再会した時からずっと縮まらなかった距離が近くなっていることに気が付いた。

北都が歩み寄ってきていたのだ。

「栢木。」

低く優しい声が耳に心地いい。

涙がなかなか声を出させてくれない、それでも伝えたい事がある栢木は必死にそれを抑えた。

「自惚れじゃないですよね?」

北都は表情で何かと聞き返す。

「北都さんが好きです。」

面を食らったように目を丸くしたのは束の間、北都は最高の微笑みを見せた。

それだけで全てが繋がる。

間違ってはいなかった、そう思うことが許されたような気がして栢木から笑顔がこぼれる。

「やっと言えました。」

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