陽だまりの林檎姫
付き人やボディーガードは許可さえ下りれば主人と同じ空間にいることが許されている。

以前マリーから栢木の許可は下りていると聞いていたから確かに栢木は入れる筈なのだ。

あの光の中へ。

しかし栢木は首を横に振って苦笑いを見せた。

「いいの。」

周りに並ぶ豪華な馬車にも劣らない、シンプルだが高級感がある北都の馬車。

しかし、その横に立つ人間には歴然とした格差が表れていた。

着古したスーツに疲れた顔、煌びやかな世界にはどう考えても不釣り合いだと分かっている。

「だから連れて歩きたくないのかしら。」

呟いた言葉は室内から聞こえてくる音楽に消されていった。

自分で選んだ道、栢木が見つめる光の世界は夜の帳が下りてきた世界とは真逆のようだ。

睨む訳ではない、しかし強い感情をもって見つめる栢木の姿に御者は疑問を抱いた。

やがて栢木は光に背を向け、空を仰いで時間が過ぎるのを待つ。

鳴り止まない音楽と時折聞こえてくる笑い声に身を委ねながら、今日も一日が終わるのを馬車の傍で静かに待つことにした。

「栢木、終わりそうな気配がしたら教えるから箱の中で休んでろ。」

熟練の御者であるダンの言葉に微笑むが栢木はまた首を横に振る。

「若いから大丈夫。ありがとう。」

疲れが外に出てしまっているのだ。

確かに最近は眠りが浅く、あまり寝た気がしていない。

やっぱり疲れも取れていないのだろうと、ぼんやりした意識の中で栢木は思った。
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