陽だまりの林檎姫
昨日は研究室にこもったままの北都をずっと待っていた。

とは言っても自室から見える離れの研究施設を窓辺で見つめて待っているだけ。

夜中に何かあったら、自分の仕事に休息時間はないとそう思っているからいつでも北都を気にしていないといけないのだ。

窓辺にもたれて外を眺めながら夜明けを待つことにも慣れてきた。

とにかく北都は研究施設にこもる事が多い。むしろあそこが彼にとっての家ではないのかと思うくらいに滞在の割合が高いのだ。

研究か逃亡か、ほとんど時間を共にすることがない主人にとってボディーガードは本当に無意味なものかもしれないと栢木は目を閉じた。

現に襲われたことなど一度も無い。

それを本人も分かっているから余計に鬱陶しく感じるのだろうけど仕方がないのだ。

だって自分はボディーガードという名目で雇われたのだから。

「栢木。」

御者に声をかけられ視線を向けるとそろそろ終わりの気配が漂っていた。

馬車を回して北都の前に姿を表し一礼をする。

「お待たせしました。」

栢木は北都以外と視線を合わせずに挨拶を済ませ、北都と共に馬車に乗り込んだ。

顔を会わせたときの北都の顔が少し驚いていたような気もするが置いておこう。

どうしてここが分かったのかと思っているのだろうがもう興味は無い筈だ。

現に栢木が馬車の中でひと段落した時には既に北都の目は閉じられ眠りの態勢に入っていた。

屋敷に戻ったら今日はしっかりと休もう。明日に響かないように、重たい心は体まで重たくしてしまう。

しかし栢木の思いとは裏腹にスッキリとした目覚めにはならなかった。

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