陽だまりの林檎姫
「顔色が悪い。寝ていないんじゃないの…?」

見透かしたマリーの言葉に栢木の目が微かに反応して見開く。目の前にいるのは心配そうに見つめる優しい老婆だ。

きっとすべては誤魔化せない。

「…ちょっとね。」

観念したように笑い、逃げるように視線を手元に外した。

その姿は今までの栢木からは想像が出来ないくらい、儚い。

「栢木…。」

マリーが手を差し伸べるような言葉をかけようとした時、遠くから栢木を呼ぶ声が聞こえて躊躇させた。

「栢木ー!北都様の食事が終わるよー?」

手を振りながら出番を知らせるミライに栢木も手を挙げて答える。

「さ、仕事だ。」

結局ひとくちも食べていない食事を手にして席を立った。

やつれたのかと思わせるくらいに体の線が細くなっている気がしてマリーは不安に駆られる。

「栢木…。」

「じゃあね、マリー。」

言葉を遮ってそう微笑むと、マリーの横を擦り抜けて栢木は食事を片付けにいった。

「無理しないで。」

歩いていく栢木の後ろ姿に声をかけた。

反応はないが、多分聞こえているだろう。

マリーはそのまま部屋を出るまで振り返る事のない栢木の姿を見送った。
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