陽だまりの林檎姫
「おはよう。」

北都のいる部屋へ向かう間にも何度となく交わされる朝の挨拶、それにも大分慣れた。

しかしそれなりの時間が過ぎて、それなりに屋敷で過ごしてきたはずなのに自分の仕事が少しも形になっていない事を思い知らされる。

大変だと憐れに思われるだけで特に何もない。

毎日この扉を開けて顔を合わせたても、交わす言葉は極めて短くあっさりとしたものだった。

きっと今日も同じ、北都の姿を追いかけるだけで一日が終わる。

「おはようございます、北都さん。」

食事を終え新聞を広げてくつろいでいる北都に近寄って声をかけた。

たまに見せるその姿、新聞を見る日と見ない日はきっと気分なのだろう。

相変わらず無反応のまま紙面をめくる姿を栢木は黙って見ていた。

「本社に書類を取りに行ってくれ。」

そう言って新聞をたたみ、カップに残った珈琲に口をつける。

本社、その単語に反応してしまった栢木は考えるよりも先に疑いを向けてしまった。

「…急ぎの物ですか?」

思った事がそのまま口に出てしまった栢木の言葉に少し驚いたようだが、北都は無表情のまま口を開く。

「必要なものだ。」

短い答え、それは納得せざるをえない状態にさせる威圧的なものだ。

黙って従えと案にそう言われているように栢木は感じた。

確か前も同じ答えだったと目が俯いていく。
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