陽だまりの林檎姫
「私が用事を済ませている間に逃亡ですか?これもう何回目ですか!?同じ家の中にいるんだから声ぐらいかけてくださいよ、盗人みたいにコソコソいなくなってどんな無駄スキルを身に付けてるんですか!?本当面倒くさい!」

畳みかけるような栢木の言葉を聞き流す意味も含めて北都は珈琲を口に含む。

分かっていたが何回飲んでもまずいものは不味い訳で、自然と表情が不機嫌に歪んだ。

「腐ってんのかコレ。」

「聞いてるんですか!?人の話!!」

一瞬にして怒りのバロメーターが振り切れた栢木は感情任せにテーブルにもたれかかり前のめりになった。

強引な形をとってようやく北都と目が合う、火を見るよりも彼女の怒りは明らかだ。

しかし当然のように外された視線は北都の関心の無さを表していた。

「人を困らせるのも大概にして下さい。マリーに心配かけないで下さいよ!」

「講演会に行くと伝えておいた筈だ。」

聞いていないようで耳に入っていた栢木の暴言に文句をつけつつ北都は手にしていたカップを机に置く。

視界の中に珈琲を入れ、まるで汚いものを見るかのように目を細めて表情を歪ませた。

その姿が余計に栢木の怒りを煽ったのか、置いたばかりの北都の珈琲カップを奪い取るなり彼女は一気に中身を飲み干す。

ふざけるな、そんな怒り任せの行動だったがその瞬間に悲劇が起きてしまったのだ。

「ん!?!?」

喉を通り過ぎた筈の液体がむせびあがってきそうな感覚に全身が震える。

「出すなよ?」

あまりの衝撃に目も珈琲も何もかもが飛び出そうになるが、北都の冷静な声になんとか堪えた。

冷ややかな視線が遠慮なしに刺さってくる。

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