陽だまりの林檎姫
「…分かりました。」

普段なら面白いくらいに感情を丸出しにした声を発する筈が、珍しく感情が読み取れない栢木の声に北都は違和感を覚えた。

今日はどことなく元気がないように見える。

そんな気持ちが一瞬生まれたが、何でもないように立ち上がり栢木の横を擦り抜けて自室に戻っていった。

取り残された場所で天井を見上げると豪華なシャンデリアが目に入る。

何を思う訳でもなくぼんやりと見つめ栢木は動き出した。

本社へ行くのにそんなに準備は必要ない。

このままでも行けるな、そう呟くと栢木は静かに屋敷を出発した。

栢木を乗せた馬車が屋敷の門を通って出ていく。

そして以前と同じように、栢木が外出してから少し経ったあと外出用に着替えた北都が部屋から出てきたのだ。

「北都様、お出かけですか?」

階段を下りる途中、ちょうど通りがかったマリーが北都に話しかける。

玄関に向かい歩いていく北都の背後では馬車の準備を促す声が飛びかっていた。

「栢木は出ていったばかりで、まだ戻っていませんが…。」

「遣いに行かせた。」

恐る恐るマリーが発した言葉に被せるくらいの速さで北都が答える。

何も言えなくさせる態度は見慣れたものだが、いつも周りは萎縮してしまう。

普段はそう感じないのに今のマリーもそうだった。

「出掛けてくる。」

有無を言わさず話を切り上げ、玄関先に到着した馬車の扉に向けて北都は足を進め続ける。
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