陽だまりの林檎姫
御者に小さく行き先を告げて乗り込むと扉を閉められたことで北都の姿が見えなくなってしまった。

カーテンが窓を覆い、中の様子が分からない。

マリーがダンに目配せしても首を振り返されるだけで目的地は分からなかった。

そういう反応の時はいつも馬車を乗り捨てて鉄道で移動する時だ。

「いって…らっしゃいませ…。」

マリーが頭を下げたことを合図に馬車が動きだす。

少しずつ速度を上げて馬車は門へと向かっていった。

薄暗い箱の中では分からない日差しが恋しくて、北都は外の景色を覗こうとカーテンを開ける。

今日はいい天気のようだ。

駅で馬車から乗り換えて、そこからその先はと頭の中で考えていたが突然視界に入ったもので一瞬に真っ白になった。

馬車が門をくぐった時に見えたのは、少し俯き加減で門にもたれていた栢木。

「栢木?」

外からダンの声が聞こえ、それが幻でないことが確定した。

栢木が乗ったはずの馬車の御者も困った様子で居心地悪そうにしている。

しかし北都が乗った馬車は止まることなくそのまま目的地へと動き続けた。

それはそうだ、中の指示もなく勝手な判断で止まることは許されない。

だが何とも言えない気持ちがダンを襲い手綱を握る手の感覚も後味が悪かった。

北都自身も遠ざかっていく栢木の姿を目ではなく気配で感じている。

体が硬直してしばらく動けないなんて。
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