陽だまりの林檎姫
そんな北都の様子を知らない栢木は、止まる事無く走っていく馬車を視界の端で見送った。

角を曲がった所で見えなくなる。

「ごめんなさい、本社へ向かってくれる?」

それを待っていたように体を起こし、馬車に乗り込んで「お遣い」に出掛けることにした。

このままお遣いを終えて屋敷に戻ったとき何を言われるかなんて分かっている。

「ごめんなさい、北都様出掛けてしまって。」

止めたんだけどと次に続くだろう、先の先が読めて苦笑いが漏れた。

「追い出す口実のお遣いか。」

ポツリともれた言葉に表情を歪める。

家の中で他所事をさせる事では飽き足らず外に出させるなんて、余程嫌気がさしているのかと思うしかなかった。

どうしてこんなにも上手くいかないのだろう、そんなに傍にいられるのが嫌なら解雇したらいいのに。

それすら面倒臭くてこっちから辞めてくれとでも思っているのだろうか。

嫌な考えが頭の中を支配して飲み込まれていきそうだ。

自分ではどうする決断も出来なくて完全に行き詰まってしまった。

涙もため息も出なくて、ただ感情だけが失われていく。

人に何を言われても右から左へ抜けていった。

「こんにちは、栢木さん。」

「こんにちは、三浦さん。北都さん宛のものはありますか?」

作り笑いや見せかけの元気な態度というのはお手の物だ。

少し元気がないと言われても調子が悪いとさえ控えめに伝えればなんてことなく過ぎていく。

「お大事にしてくださいね。」

「ありがとうございます。」

簡単だ。
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