陽だまりの林檎姫
頼まれた遣い先の本社でも、屋敷に戻ってお決まりの台詞も聞き流して自室に向かった。

別に屋敷の主人がいないのは誰の所為でもない。

謝られてもどうしようもないし、今は何も考えたくなかった。

北都宛のものは机に置いた、特に仕事も無い栢木は自室に戻って倒れるようにベッドに体を預ける。

思ったよりも体が重い。

負の感情の重みで動けなくなりそうになりそうで怖くなった。

飲み込まれそう。

「栢木。」

引きとめるように栢木の部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。

「栢木?いい?」

名乗らなくても誰なのかは分かる。

「…どうぞ。」

力のない声に促されて入ってきたのはマリーだった。

「…栢木。」

完全に覇気を無くしてベッドに横たわる彼女を見て名前を呼ぶしか出来ない。

上半身だけ体を起こす栢木の傍らに腰を下ろし、その表情だけで何が言いたいか痛いほどに伝わってきた。

「心配?」

そう言って栢木が苦笑いをしてみせる。

「ええ…。栢木がいなくなってしまいそうで。」

マリーの言葉に栢木は作り笑いさえも失った。
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