陽だまりの林檎姫
伏せがちな目はどこを見ているのか分からない、きっと目に入るものなんてどうでも良かった。

「私からいなくなることは無いって。…でも私は必要とされていないから。」

それは栢木の素直な声だった。

いま栢木が感じている大きな不安はそこにあり、それが体と心を軋ませる。

「そんなことない…っ。貴方は今までの人とは違う、私達には分かるのよ。」

今までの人、それは職種を変えては採用してきた北都の側近達を示していた。

助手にしても秘書にしても誰も長続きはしない、すべて北都が拒み寄せ付けなかった人たちのことだ。

彼らがいまここにいないのは自ら立ち去ったから、栢木がまだここにいるのは自ら立ち去ろうとしていないからだ。

「何も変わらない。」

きっと抱えてきた気持ちは同じだろう。

「いいえ。確かに栢木の対応が今までの人と違うのもあるけど…北都様も違う。迎えを待ったりはしなかった。」

「でも厄介払いして出ていくじゃない…結局は同じ。」

聞く耳持たないといった態度で栢木はマリーを跳ね返した。

いくら前と違うといわれても信じられない、栢木は前を知らない。

いま現実として北都が友好的ではないのは分かる、それだけで十分じゃないか。

栢木は手を額に当てて、態度で拒否反応を示した。

これ以上同じことを何度も繰り返し聞かされたくはない。

何を言っても伝わらない、マリーの気持ちも行き場を失い部屋の空気が重たくなった時だった。

「栢木ー?いるー?」

暗く沈みきった部屋の空気を変えるように、ノックと共に明るい声がかけられる。
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