陽だまりの林檎姫
「そうなんですよ、マリーさん!私も驚いちゃって!」

まるでおもしろい噂話をするような、気持ちの高ぶりを見せる二人に栢木はついていけない。

ミライは聞いてくださいよと言わんばかりに手を何回も振りながら嬉しそうにマリーに近付いた。

「まあ、ハッキリと看病してやれとか言われた訳じゃないんですけど~…あいつは調子でも悪いのか?何を食べてるんだ?って。もう解釈するのに時間かかっちゃって~。」

何をしていなくても零れてくる笑い声は余程楽しいことが起こったのだと思わせる程弾んでいる。

よく分からないという顔をしている栢木に気付いたミライは歌うように言葉を続けた。

「初めてよ?北都様が誰かのことを気にするのは。」

ねえ、とマリーに同意を求めてマリーもそれに応えて頷く。

まだよく分からない栢木は首を傾げたままだ。

「前々から栢木にだけは対応が違うと思っていたけど、やっぱりね。認められているのねー、栢木は。」

歌うように笑うミライの表情は輝いて見える。

「栢木だけですよねー?北都様を連れて帰ってきたのって。毎回っ北都様が不機嫌でおもしろいんだけど。」

マリーに同意を求めるだけ求めてあとは自分の世界に入ってしまった。

きっと今迄の事を思い出しては楽しんでいるのだろう。

確かに毎回、北都は不機嫌そうな顔で屋敷に入っていく。

栢木もミライと同じように記憶を甦らせた。

しかしミライとは異なり、それはやはり迷惑だと言っているのではないのかと思う後ろ向きな考えが止まらない。

「みんな栢木の活躍に感心してるのよ。」

だってさっきまで、自分は必要とされていないのだという話をしていたのだ。

混乱し始めた頭の中は自分では収集つかない。

何より、栢木の中でずっと消えずに在り続ける思いが強すぎた。

使えない奴だと思われているに違いないと。

まさかの希望を見つけるのが少し怖いのだ。
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