陽だまりの林檎姫
心配ないとなだめるように微笑むと栢木はもう一度部屋に戻った。

さすがに夜は冷え込むため、北都の分も上着を準備する。

栢木が階段を下りると玄関先にはすでにダンの馬車が待機していた。

その傍らには心配そうに栢木を見つめるマリーや使用人仲間の姿がある。

さっきの騒ぎの中にはいなかったのに、相変わらず目がいき届いていて仕事が早いと感心してしまう。

「マリー、行ってきます。」

そう微笑む栢木に近付くとマリーは手にしていたものを差し出した。

「栢木、これを持っていって。」

馬車の中も寒いからと手にしていた毛布、まるでマリーの優しさも同時に貰ったようで自然に笑顔がこぼれる。

「ありがとう、マリー。」

「何か役に立つかもしれないから、これも。」

さらに渡された新聞を受け取り、栢木は馬車に乗り込んだ。

少しひんやりした箱の中は栢木の気合を入れるのにふさわしい場所だ。

「気を付けて…無理しないでね。」

「分かった。行ってきます。」

そう手を振って微笑むと扉を閉めた馬車は走りだした。

少しずつ遠くなっていく馬車を見送りながら、マリーは心配でたまらない気持ちを必死に抑え込む。

マリーの気持ちを感じつつ栢木は馬車の中にある灯りを見つめた。

ぼんやりとした赤黄色い炎の輝きが箱の中を優しく照らしている。

考えなければ。

北都がどこへ向かったのか、今どこにいるのか捜し出さなければ。

焦る気持ちを抑えるように額に拳を当てた。
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