陽だまりの林檎姫
栢木の様子がおかしい理由は体調不良じゃないと北都は気付いているはずだ。

北都は今、何を考えているのだろう。

今まで辞めていった人達と同じように去っていくのを待っているのだろうか。

だとしたらミライにかけた言葉の意味はなんだろう。

「栢木、着いたよ。」

外から御者の声がかかって栢木は顔を上げた。

悩んでいる間にとりあえずの目的地に辿り着いたようだ。

ここはいつもの馬車通り、北都は時々馬車を降りて鉄道に乗り換える時がある。

今日もここで馬車を降りて鉄道に乗り換えたと言うからとりあえずの手がかりとして来てみたのだが。

「誰もいない、か。」

時間も遅く、駅に人影はなかった。

とにかく降りた時間やら駅の位置やらで目的地を割り出さなくてはいけない。

まずは北都と同じ行動をしてみようと栢木は気合いを入れた。

「ありがとう。」

そう言って立ち上がった拍子に何かが視界の端で落ちたのに気付く。

マリーが用意してくれた新聞が落ちてしまったようだ。

栢木はあまり読まないが北都は時々朝食後に読んでいるのを思い出した。

「あ、落としちゃった。」

何か含むつもりもなく言葉がこぼれた瞬間、ある広告が目に入り栢木は拾おうとしていた動きを止める。

拾おうとした指先の向こうに並ぶ文字を読んで何かが引っかかった。
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