陽だまりの林檎姫
そう、栢木が本当に伝えたいのはこの言葉だ。

北都を守るという自分の存在意義を分かってほしかった。

「俺には関係のない話だ。」

栢木の熱弁を一気に冷ます威力を持ったため息が聞こえる。

その温度のない表情はまるでこの話は終わりだと態度で示しているようだった。

実際に栢木は何も言えなくなり口を紡ぐことになるのだ、そしてこの返しは一回や二回じゃない。

北都は度重なる栢木の訴えにいつも冷たく切り捨てるだけだった。

まるでその事を嫌うような口調、それは一番困る反応なのに。

「北都さん?」

北都が背伸びをするように立ち上がると、今までの重く冷たい空気から解き放たれていくようだった。

本当に栢木の話は終わってしまったらしい。

諦めて懐中時計を取り出すと栢木は目を細めた。

屋敷から遠く離れたこの場所から帰るとなると、早くしなければ夜になってしまう。

「今日はもう帰りましょう、北都さん。」

おそらく口直しで他の店に行こうとしている主人を静かな声で引き止めた。

無言の圧力、少しした後に北都はため息をついて一度持ち上げた荷物を再び下ろした。

「静かな午後が台無しだ。」

吐き出すように呟いた台詞を栢木は聞き逃さなかった。

それは諦めの言葉、そして栢木が勝利した瞬間だ。

「馬車へ案内します。」

思い通りに事が進んだ満足感から、自然と顔も声も明るくなっていた。
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