陽だまりの林檎姫
「貴族を顎でこき使って馬車馬のように働かせる。そっちの方がよっぽど陰険ですよ。」

「そんな扱いしてないだろ。」

「似たようなものです。でもそんなこと…どうでもいいんですよ。」

栢木の言葉が腑に落ちないのか北都は目を凝らしてその奥を探ろうとした。

「でもお前、貴族なら…。」

「そんな話なんかしてどうするんですか。私はそれを捨ててここにいるんです。」

「捨てた?」

北都が復唱したことにより改めて自分が発した言葉を思い返して栢木は首を横に振る。

言葉を間違えた。

「捨てたというより…家出をしてきたんです。」

「家出?」

頷くことで肯定を示し、栢木は意を決してもう一度北都の目をまっすぐに見つめた。

伝えなくては。少しでもいいから分かってもらう為には伝えなくては。

「私は他に行くところがありません。だから自分から屋敷を出ていくことはしませんし、追い出されても困るんです。」

思いの強さで自然と手元に力が入る。

寒いからじゃない、全身に入った強い思いが体を強張らせて固めていった。

「自立して生きていくためにも、居場所を確保するためにも今の仕事を失う訳にはいきません。私だって必死に働いているんです。」

声が震えたのを感じる。

言葉にして気付かされた本当の自分勝手な思いに嫌悪感を抱いた。

自分だって己の欲のために北都を利用していたのだ。
< 62 / 313 >

この作品をシェア

pagetop