陽だまりの林檎姫
「私の居場所を見つけたからです。」

誇らしい気持ちを手にして栢木は思いを口にした。

しかし北都には分かりかねているようで、彼の眉間にシワが寄り目を細める。

ああ、いつもの様に戻ってきた気がする。そんな安心感が生まれて微かに笑みを浮かべた。

「追い出されるまでは働きますからね、北都さん。他に行き場が無いので邪険にしないでくださいよ?」

それは栢木なりの賭けだったのかもしれない。

これ以上の拒絶を恐れ、それでも離れられない彼女にとって精一杯の強がりと防御だった。

しかしそれが幸を成す。

「…脅しか。」

これまで疑いや敵意のある目をしていた北都の目元が和らぎ、微かに笑みを浮かべたのだ。

初めて見る笑顔だった。

「いいえ。お願いです。」

「知らん。勝手にしがみついてろ。」

気まぐれではない。

北都は二言め以降も刺々しい空気を出さずに柔らかく話していた。

「…そうします。」

かろうじて返せたのがこの言葉だけ、それでも栢木の表情は穏やかで笑みを返すことができた。

「寝る。」

「はい。」

いつもと変わらない態度がこんなにも嬉しいのはそこに声という音があるから。

そして表情という色があるからだ。

さすがの北都も長い外出に疲れたのか目を閉じるなり寝息をたて始めた。
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