陽だまりの林檎姫
マリーの用意してくれた毛布が役に立ちそう。

起こさないように静かに毛布をかけて、改めて北都の顔を眺めた。

さっきの時間は幻ではない。

ここまでに辿りつくまで、まるで何年もかかっていたように思える位に険しかった。

街灯の灯りがカーテンの隙間から北都を照らし、それはいつになく幻想的で、まるで北都が光に包まれているようだ。

人とは違う特別な何かに見える。

懐かしくて淋しくて嬉しくて、複雑な感情が栢木を混乱させていた。

涙が自然と頬を伝う。

やはり北都は栢木を待っていた。

今聞いた中でも様々な感情と疑いがあっただろうに、それでもこんな時間になるまで待っていた。

その事が嬉しいのか、自分が情けないのか、とにかくあふれ出る涙は止まらない。

「北都さん…っ。」

静かに眠る姿に触れることは出来ない。

それでも同じ空間にいることで満たされる心は涙を誘う。

止まらない涙を抑えるように手で覆って、起こさないように必死に声を殺しても無駄だった。

「…ふっ…北都、さんっ…。」

嗚咽交じりの声が縋り付くように止まらない。

でも涙の理由はよく分からないのだ。

ただ最近の晴れない気持ちをすべて吐き出すような、そんな本能的な涙に感情なんて関係なかった。
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