陽だまりの林檎姫
しかし栢木はそれにも気付かない深い眠りに入っているようだ。

「おい。」

声をかけても反応はしない。

「おい、起きろ。」

肩を軽く揺すっても栢木は深い眠りから覚める兆しがなかった。

思い出す栢木の顔は疲れきったものばかり、ちゃんと眠っていなかったのかと安易に予想できて北都はため息を吐く。

「ったく…。」

そう呟いた後も栢木の顔から目が離せなかった。

薄暗い照明では顔色がよく分からないがおそらくいいものではないだろう。

北都は扉を開けて外の光を取り入れた。

中の様子が分からなかったマリーは、栢木ではなく北都が最初に現れた事に驚いて目を見開いている。

「お、おかえりなさいませ。あの、北都様?…栢木は…。」

動揺して北都に状況を求めると、北都は視線で箱の中に意識を促した。

中にはすっかり眠りに落ちている栢木がいる。

「これを頼む。」

その姿を見てまたすれ違ってしまったのかと心配していたマリーはとりあえず安心した、そして差し出された荷物を受け取ると再び箱の中に戻る北都の背中を見つめる。

何事かと待っていれば、さらに驚く姿を目撃して固まってしまった。

北都が眠っている栢木を背負って出てきたのだ。

思わずダンと顔を見合わせてマリーは瞬きを重ねた。

何も言わずに歩き出した北都の靴音が夜の玄関に強く響いている。

心地よく揺れるリズム、栢木の意識の中では懐かしい香に包まれていたのだ。

「北都さん…。」

囁くように呼ばれた名前は北都の耳にも届いた。

「何がボディーガードだ。」

吐き捨てるように応えた北都の背中で栢木は風を感じていた。

起きた後に気付くが、そういえば最近寝ていなかったなとか、北都を見つけた安心から来たのかなとか。

とにかく色々な理由が重なって結局は次の日の昼近くまで栢木は目を覚まさなかった。
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