陽だまりの林檎姫
にこやかに告げるマリーの様子から栢木が体調不良で休んでいる訳ではないことは感じられた。

言われてみれば栢木が屋敷に入ってから休みをとった記憶がない、それも手伝って大した疑問も抱かずにこの話は使用人仲間に広がっていった。

絶対安静、面会謝絶と書かれた紙が栢木の部屋の扉に貼られている。

誰が貼ったのか、その効果もまた絶大だった。

「あらまあまあ。」

栢木の部屋の前でマリーが貼り紙を見つめながら微笑ましそうに目を細める。

これで栢木は誰にも邪魔されずに体が求めるかぎりの睡眠を取ることが出来そうだ。

昼を過ぎて少し経った頃、使用人が待機する部屋に来客を知らせる鈴の音が鳴り響いた。

それは門番からの知らせで動けるものは全員出迎えの為に玄関先に移動する。

来客の正体は馬車を見ればすぐに想像がついた、見覚えのある馬車、どうやら来客は相麻製薬からの使者のようだ。

ならば考えられる人物は二人なのだが。

「まあ、三浦さん。」

玄関先に停められた馬車から降りてきたのは相麻製薬社長秘書の三浦だった。

三浦か社長である相麻千秋か、社長ではなかったことに一同は安堵の表情を浮かべる。

それと同時に女性陣は望んでいた人物に心をときめかせたようだ。

「こんにちは、マリーさん。北都さんはご在宅ですか?急ぎの書類を預かってきたんです。」

相変わらずの爽やかな笑顔に女性陣からはたまらずに甘いため息を漏らした。

「北都様なら研究室に。お呼びしますので中へどうぞ。」

三浦に負けないくらいの穏やかな笑顔でマリーは中へ案内する、歩き始めたマリーに続いて三浦も進み始めた。

精一杯控えめにした黄色い声を背に受けて目的地へと歩いていく。

「栢木さんは?外出ですか?」

いつもなら顔を出すはずの栢木がいないことに気が付いて三浦は問いかけた。

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