陽だまりの林檎姫
にこにこと笑うマリーは本当に楽しそうで、今までにない北都の変化を素直に喜んでいるようだ。

「…そうですか。」

そう答えると三浦はいつもの様に通されてお決まりの場所に腰かける。

北都と会う際はいつもこの部屋に通されて北都が現れるのを待っていた。

それは今日も同じ事だ。

相変わらず応接間の大きな窓の向こうに広がる庭の景色は実に見事だった。

来る度に微妙な変化を見せてくれる庭は、庭師のこだわりや腕の良さを感じさせる。

マリーとの会話もそこそこに三浦は庭に気持ちを惹きつけられて見入っていた。

いや、視線の先こそ庭に向けられているが心は伴っていない。

栢木の姿を思い出して虚無感を抱えてしまったのだ。

いつの間にか用意されていた珈琲をすすりながら思いを馳せていたからだろうか、意外と早くに待ち人が現れ気持ちを切り替えた。

「お待たせしました。」

扉を開ける音に反応して立ち上がると三浦は一礼して北都を迎える。

「こんにちは、北都さん。研究中に申し訳ありません。社長から封書を預かってきました。新薬の売り上げと成果です。」

歩きながら座るように手で促され、三浦はそれに従ってもう一度腰かける。

ふと頭の中でマリーの言葉が思い返されて意識的に北都を眺めてみた。

しかし目の前に座る北都にそんな変わりがあるようには思えない。

三浦の熱視線に気付いて顔を上げた北都と目が合い、慌てることなく受け入れるように三浦は微笑んだ。

「調子はいかがですか?今日は栢木さん、いらっしゃらないんですね。」

「はい。」

いつものように素っ気なく答えると目の前にある封蝋を解いて中を確認し始めた。

分かってはいたが短い会話は呆気も無く終わってしまったようだ。

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