陽だまりの林檎姫
まだ幼い顔付きは彼がまだ成人していないという証であり、そして青年と呼ぶにはまだ早い彼には助手が誰も付いていなかった。

1人で長い年月をかけて研究し、開発に成功したと知った時には全身に鳥肌が立ったのを覚えている。

いつの間にこんな難しい話を交し合う年齢になったのだろう、そんな考えが頭を掠めたが今はそれを考えないようにした。

「それでは私はこれで。」

「ご足労ありがとうございました。」

感情の分からない声だったが、また親心の様なものが顔を出して三浦は瞬きを重ねる。

いつの間にこんな言葉を使う様になったのだろうか。

自分も年を重ねた分、当然の様に北都も重ねているのだと分かっていてもどうしようもない気持ちが三浦を微笑ませた。

「いいえ。研究頑張ってください。」

普段言わないような言葉を贈ってしまうのはきっとそのせいだ。

応接間を出ようと扉を開けた時、この屋敷に似つかわしくない地響きのような音が聞こえて2人は疑問符を浮かべた。

「何でしょう?」

北都も思っていた事だが三浦が先に声にする。

三浦が呟いたのも束の間、2人の目に物凄い勢いで走ってくる栢木の姿が映り目を見開いた。

「北都さん!!」

顔を真っ赤にして北都に前まで駆け寄り、足を止めた勢いそのまま腰を折ってその頭を深く下げる。

彼女の金色の髪がコマ送りの様にゆっくりと宙を舞って重力に従った。

「いま起きました!すみませんでした!」

ギリギリの距離まで攻めてきていた栢木の頭が北都に触れるぐらいの近さに位置している。

おそらく起き上がり、寝過ごしたことに自覚して急いで支度するなり走ってきたのだろう。

いつもなら綺麗にまとめられている髪も今日はどこか不細工にところどころ落ちていた。

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