陽だまりの林檎姫
「…失礼しました。三浦さん?どうかされましたか?」

何でも無かったとマナーの様に謝罪を入れると栢木は首を傾げて宙に浮いた手をそのままにした三浦に問いかける。

「あ、いいえ。…そろそろ、社の方に戻りますね。」

浮いた右手の行き場を自分の後頭部にしてわざとらしく髪をすいた。

栢木は不思議そうに微笑んでいたが、北都には三浦の心中が分かって思わず目を逸らしてしまう。

「私はこれで。」

空気を変えるかのような北都の言葉に三浦は微笑み頭を下げた。

「はい。お時間ありがとうございました。」

答えるように一礼するとそのまま北都は何も言わずに研究室へと戻っていく。

北都の後ろ姿を切なそうに見つめる栢木に三浦は気付いていた。

「お送りします。どうぞこちらへ。」

しかしそれも僅かな時間のこと、栢木は素早く気持ちを切り替えるといつもの上品な笑みを浮かべて手を差し出した。

三浦がその言葉を受けたと分かるような反応を見せると栢木は斜め前を歩き始める。

「もう元気になられたみたいですね。」

その言葉を受けて瞬きを重ねると意味を理解した栢木は苦笑いを浮かべた。

「ご存知でしたか。お恥ずかしい話です。」

「いいえ。心配していたんですよ、最近の栢木さんは少し元気が無いように感じていましたので。」

「ご心配ありがとうございます。」

あくまで足を止めずに会話を続ける栢木の表情は三浦からは僅かにしか読み取れない。

少し困ったように首を傾げると三浦は視線を伏せて、納得したように頷いた。

いつもなら三浦から話題が振られて絶え間なく会話が続くのに珍しく止まってしまったことに栢木は気付く。

様子が気になった栢木は歩きながら首を捻って斜め後ろを歩く三浦の様子を窺った。

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