陽だまりの林檎姫
「査定、楽しみにしていてください。」

「え!?」

とんでもない発言をされて栢木のポーカーフェイスが一気に崩れる。

その反応にまた声を上げて笑うと、高級な馬車に乗り込み三浦は帰っていった。

「部屋に戻ろう…。」

冗談か本気か、三浦の真意が分からない以上とりあえず仕切り直しの為に部屋に戻るため歩き始める。

北都は研究室に戻った、だとしたら三浦が帰ったという報告もいらないだろう。

階段を上り自室の扉を見つめていると異変に気が付いた。

さっきは急いでいたため全く気付かなかったが、扉には貼り紙がされている。

「絶対安静、面会謝絶。…何これ。」

まるで重病人の様な文字の並びに栢木は困惑した。

成程、一日中これがここに貼られていたという事かと思うとまた恥ずかしさが込み上げてくる。

「はあ…査定って本当かも。」

情けない気持ちで紙をはがそうと手を伸ばした時、何かが気になり手を止めた。

「北都さん?」

よく見てみると、紙の文字は見慣れた北都の筆跡に似ている。

似ているだけかもしれない、それでも北都の物だと栢木には思えて心が弾んだ。

「大切にされているんですね。」

三浦の言葉が思い出され、ぶっきらぼうな優しさが栢木の心をくすぐる。

丁寧に貼り紙を外して胸に抱きしめた、何と言葉にしていいのか分からないけど顔が緩んで仕方がない。

「本当かな。」

くすぐったい気持ちも一緒に抱えて栢木は部屋の中へ入っていった。


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