陽だまりの林檎姫
「珈琲ひとつにしても奥深いのね。ミライがそうしてる?お店で飲むよりミライに淹れてもらう珈琲の方がずっと美味しい。」

「それは嬉しい言葉。」

「気付いているのかいないのか…北都さんも逃げ出してはカフェで見付けるんだけど毎回渋い顔で珈琲飲んでるのよね。」

ため息混じりの言葉に北都は目を細めた。

「栢木に見付かったのが不満なんじゃないの?」

「あはは、それもあるか。でも珈琲の味にいまいち納得できてないんだと思う。声をかける前から眉間にシワが寄ってるからね。」

不満でももらすのかと構えていれば予想を超えた言葉に北都は目を丸くする。

正直なところ寝耳に水、全く自覚していなかったのだ。

カフェに寄れども納得がいかない理由は屋敷の珈琲に敵わなかったから、それは目から鱗だった。

「でも納得。ミライの珈琲が一番美味しい!」

「ふふ。今度美味しいお菓子付けてあげる♪北都様には秘密でね。」

北都は今までの珈琲を思い出して口元に手を当てた。

屋敷にいて珈琲の味に不満を持ったことはない。感動もしたこと無かったが、それは慣れていたからなのだろうか。

気付かされた今、試してみると何か違うように思えるのかと興味が湧いた。

とはいえ、さっきから思っていたがこれは一体。

「何の騒ぎだ?」

「ひゃあ!!」

和やかな空気を裂くような声が後ろの方から聞こえ、思わず声をあげてしまった。

ぎこちなく振り返れば予想通りに腕を組んだ無表情北都がそこに立っている。

「北都さん…っ!?」

「申し訳ありません、すぐに片付けます!」

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