陽だまりの林檎姫
手早く片付けを済ませてそそくさと部屋から出ていくミライ、すれ違い様に見えた彼女のトレイの上は珈琲が入っているだろう小袋がいくつか並んでいた。

少なくともあれだけの種類はあったということか。

「もう研究の方は終わりましたか?」

視線だけでミライの姿を追う北都に話題を変えるべく、ひきつった笑顔を見せながら栢木は北都に近付いた。

理由は分からないが、見られたくない場面だったのかと納得しながら不自然な動きの彼女を迎える。

「何か届いてないか確認に…。」

「封書が届いていました!取ってきますね!」

北都の言葉を遮るよう挙手をして叫び、まるでその場から逃げだすように栢木は走って飛び出した。

静寂と共に部屋に取り残された北都には疑問符がいくつも浮かんでいる。

「ふふ。お戻りですか?」

くすくすと笑うマリーの存在に気付き北都は視線を向けた。

どうやらミライと入れ違いで現れたようだ。

怪訝な顔を見せる北都にマリーは楽しそうに微笑んで口元に手を当てた。

言いたいような言いたく無い様な、マリーの悪戯心が疼いているようだが北都の睨みには敵わないようだ。

肩を竦めて少し距離を縮めると声を潜めて北都に告げた。

「勉強をしていたんです。」

「勉強?」

北都の復唱にマリーは頷く。

「お気づきではありませんでしたか?毎日北都様の僅かな変化に対応してミライは珈琲の濃さを変えていたんです。ミライだけではありません、他の者も徹夜明けだったりこれから研究に入るという日はそれに合わせて味や温度を調整していました。」

初めて知らされる驚きの事実に北都は言葉も無く瞬きを重ねた。

「勿論…追いかけっこをされた日も、疲れに効く様に工夫をしていますよ?」

意地悪く囁くと北都の眉間は寄り、たちまちバツが悪そうに不機嫌な顔を見せる。

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