陽だまりの林檎姫
「ふふ。栢木はまるで飼い犬の様ね。」

「え?犬?」

北都の心の声を代弁してくれたマリーに栢木は首を傾げて疑問符を投げる。

横で北都はため息を吐くとマリーに視線を向けた。

「研究室に戻る。飲み水を用意してくれ。」

「はい。お持ちします。」

北都の要望を受け入れたマリーはすぐに準備に取りかかる為に部屋を後にする。

2人残された部屋で栢木は北都に向かい合うと笑顔を見せた。

「頑張ってくださいね。」

その表情に北都は目を大きくする。

前はどちらかといえば作り笑いや愛想笑いばかりだったのに、いつしか栢木は自然と北都に笑いかけるようになった。

いや、それがいつからなのかは北都も気付いている。

栢木と北都の関係が変わったのはあの日からだった。

遅くまで帰らない北都を迎えに来た栢木、そこから少しずつ変化が生まれ決定的に変わったのは名前を呼んだあの日。

栢木、と初めて名前を呼んだあの日から2人の関係は確実に変わった。

会話が増えて表情も多くなったように思う、何より栢木と居る時間が増えたことが一番の変化の様に思えた。

研究施設に食事を運ぶ役もマリーから栢木に変わったと聞いている。

室内外に通じる場所として作ってある食事棚に置くだけで顔を合わせる訳でも無いのに進んで役を買って出たのだとマリーが言っていた。

そんなに名前を呼ばれたかったのだろうかと、よく分からない彼女の変化を探るために思わず凝視してしまう。

「ど…どうかしました?」

いつもなら無視か聞き流すかの態度しかとらない北都が珍しく栢木を見つめたまま動かなかった。

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