陽だまりの林檎姫
いや、見つめるというよりも睨むというか観察されている視線に栢木も戸惑い始める。

何だろう、何を言われるのだろうと構える栢木に北都は口を開いた。

「栢木。」

「は…い?」

緊張のあまり栢木の顔が引きつってしまう。

変化を探るために凝視していた北都だが、胸の内ではなく表面的な変化に先に気が付きそこで思考が止まってしまったようだ。

「おまえ、少し痩せたんじゃないか?」

「え?」

「顔の辺りがそう見える。」

そう言うと北都は自分の右腕を伸ばして栢木の頬に触れようとした。

しかしその途中で過った記憶に後悔の念が生まれる。

確か以前にあった三浦との出来事で、栢木がごく自然に振る舞い三浦が触れるほどに近付くのを拒絶していた場面を思い出したのだ。

自分もそうなる。

引き戻そうと思っても体の動きは止まらなかった。

しまった、と心の中で後悔の念が疼く。

しかし北都の予想とは違い、拒絶されるだろう筈の指が栢木の頬に辿り着いた。

「あ、悪い…。」

反射的に謝罪の言葉が出たものの、触れてしまったという衝撃が頭のてっぺんから下へと駆け抜ける。

その瞬間、栢木の体が固まったかと思うと、彼女は目を見開いたまま真っ赤に染まってしまった。

「…え?」

忙しく視線が彷徨いながら栢木は俯き加減になって黙り込んでしまう。

動きようのない北都の手はそのまま栢木の頬に触れ続けていた。

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