陽だまりの林檎姫
栢木の体温が指先から伝わってくる。

何だ、これ。

表情を変えない北都の頭の中でぐるぐる考えが回り、予想しない栢木の態度に戸惑いが生まれた。

頬に触れたその指先から内側へとだんだん熱を帯びていくのが分かる。

「き…気のせいです。最近は筋トレをよくしてたので、そのせいかもしれません。」

たどたどしく答える栢木の声につられて二人ともがぎくしゃくした状態になってしまった。

何とも言えない空気から逃れたくて北都の体に力が入る。

「そうか。」

そう呟いてそのまま栢木の頬をつまんだ。

「痛い痛い痛いーっ!」

叫び声が室内に響いたことを合図に手を離すと俯いていた筈の栢木が顔を上げて勢いよく睨み付けてきた。

「何するんですか!」

余程痛かったのか、頬をさすりながら向けられるその目は微かに潤んでいる。

「確かに肉はある。」

「ひどっ!私の乙女心を返せ!」

腕を組んで毎度のしかめ面を伺わせる北都に更に食い付いて栢木は叫んだ。

聞き慣れない単語に北都の表情は更に渋くなっていく。

「なんだ?乙女心?」

そんなの持ち合わせていないだろう、そう続けると更に栢木は食い付いてきた。

「ありますよ!だいたい、思ってても言っちゃ駄目ですって!」

「あら、まあまあ。賑やかだこと。」

横で騒ぐ栢木をよそに、飲み水の準備を終えて戻ってきたマリーから瓶を受け取る。

何食わぬ顔で聞き流しをすると北都はそのまま研究室に戻ろうと歩き始めた。

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