陽だまりの林檎姫
「儂だって休息が欲しい。」

「はい。」

「だから、やれることはやってだな。…後は逃げてきた。」

一度大きく目を開くと少しずつ北都の目が細くなっていく。

つまりは十分にこなしたといって、大公の仕事を放りだして逃げてきたということだ。

「儂にだって休む権利はあるだろう!?」

「ご自分に与えられた役割を果たしてからです。」

「お前まであいつらと同じことを言うのか!」

「務めを果たしてこその権利では?ミズキさん。」

「っかー!」

北都の言葉に衝撃を受けて返り撃つ言葉を見つけられなかったミズキは意味のない声を出して項垂れる。

そして背もたれに体を預けて天を仰いだ。

「お前、若いのに頭ガチガチだぞ。」

「この年で余裕がある人はそうそういないでしょう。」

「それはそうだがなあ…。」

上を向いたまま投げられる声はどこか遠い。

やがてミズキから笑い声が零れ、勢いよく体を起こすと頬杖をついて北都に向き合った。

何事かと運ばれたばかりの珈琲を口元に当てていた北都は固まって見守る。

「まあ、一番の目的を果たせたからそれでいいわ。」

その言葉の意味が分からず北都は視線で疑問符を投げかけた。

可愛らしい反応だと思っているのだろうか、ミズキは満足そうに目を細めて笑いかける。

「北都、元気そうで良かった。アレも心配していたぞ。」

思いがけない言葉を貰い北都の目が見開いた。

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