陽だまりの林檎姫
「そういう訳ではありませんけど。」

「…ほお。」

意外だというその反応でさえも厭らしく思えて身を引きたくなってくる。

しかしミズキはそれを許さず意地悪な笑みを浮かべてさらに続けた。

「お前…女でも出来たか。」

「は?」

どの方向か分からない追究に目を丸くするとそのまま北都は固まってしまう。

だがミズキはお構いなしに反対の腕も机に乗せるとより近い位置で聞こうと更に体を寄せてきた。

「人が変化を恐れる理由は失うことだ。それで?どこの令嬢に惚れたんだ、え?言ってみろ言ってみろ。」

目を輝かせてせがんでくるミズキの姿は少しずつ北都に冷静さを取り戻させてくれる。

年寄りの悪ふざけだ、そう結論を導き出せばどうでもよくなったこの状況を早く終わらせたくなった。

「何を馬鹿なことを。」

「恥ずかしがることは無いぞ?儂だってそれなりに色んな経験を積んでだな。」

「長くなる話でしたら日を改めて下さい。」

「ははは!まあ、構わんがな!おっと、そろそろ奴らも追ってきよるわ。」

大げさに肩を竦めると手元の懐中時計を見て眉を上げる。

困った人だ、そんな思いからどうしようもないと北都は微笑んで言葉を受けた。

「きっと近くで待機されていますよ。」

「だろうな!あいつらは優秀だ。」

上手く抜け出せたと思っていても気分転換を出来るように自由な時間を作ってくれているということをミズキは分かっているようだ。

すぐにミズキを発見しても時間の許す限り見守ってくれているのだろう。

心地よい主従の信頼関係に北都は微笑んだ。
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