イジワル上司に甘く捕獲されました
「……だけど、何?」

潤さんは言いにくそうに一つ溜め息を吐いて。

「恐らく春には美羽は元の支店に戻ることになると思う。
尚樹は本部との兼務だからまだ動かないだろうけれど、俺も少なくとも来年は異動になると思う」

その言葉に、私はガンと頭を殴られた気持ちになった。

……会社員なのだから転勤は当たり前で。

個人的な感情でワガママは言えない。

潤さんは今回の大きなプロジェクトの功労者で、それこそ、次の異動は文字通り栄転、出世になると皆が話している。

……そんな彼の足を引っ張る真似はできない。

だけど。

今、恋人として一緒に過ごせるようになった時間は私には大切すぎて。

それこそ宝物のようにかけがえがなくて。

慣れない札幌での生活も。

慣れない仕事も。

真央がいない一人暮らしも。

寂しくないのは潤さんがいてくれるからで。

なのに。

離れ離れになってしまうなんて。

考えられない。

「……離れ離れになってしまうの……?」

泣くつもりはなかったのに、涙で見上げた潤さんの顔がボヤける。

鼻の奥がツンとする。

「……美羽」

困った表情で潤さんが私の目元を指で優しく拭う。

その手を掴んで俯く私に。

潤さんは屈んで額をコツンと合わせた。
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