イジワル上司に甘く捕獲されました
藤井さんが電話を切ってすぐ。

電話が鳴って、ワンコールで藤井さんが出た。

「……はい、ええ。
今すぐですからねっ」

受話器を置いて、ふうっと息を吐いて藤井さんは少し落ち着いた表情をしていた。

「……あの、藤井さん?」

「ああ、ごめんね。
今、桔梗さんの行きつけの喫茶店に電話したの。
もしかしたら、と思って。
桔梗さん、鞄の中に社内用の携帯電話入れっぱなしによくするのよ、何回もやめてくださいって言ってるんだけど。
今から桔梗さんが戻るわ、とりあえず桔梗さんに相談しましょう」

ニッコリと微笑む藤井さんは頼もしくて。

動じないこと、色々な対処法を思い付くことが先輩だなあと思った。

一人オロオロしてしまって泣き出しそうだった私とは、全然違う。

そのことを藤井さんに伝えると。

「嫌だ、違うわよ。
年の功よ、それと、直属の上司の行方不明が多いから結果的にそうなっただけ。
橘さんが悲観する必要はないわ。
橘さんは頑張っているわよ」

逆に慰めてもらう始末の私。

そこへ戻ってきた桔梗さんは書類の山を見て端正な顔をしかめた。

「……こりゃ、酷いな。
藤井、潤には俺が連絡したから、すぐ帰社する。
とりあえず潤から大体の指示は聞いたから、やれることをしよう」

いつもの軽い調子の桔梗さんではなくて、仕事ができる上司の顔に変わっていた。

「桔梗さん、外出は?」

恐らく桔梗さんの予定を把握している藤井さんが尋ねると。

「急ぎではなかったから、日程を変更してもらった。
さすがだな、藤井」

口角をあげて微笑む桔梗さんに藤井さんが何故か俯いて、わかりました、と小さな声で言った。



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