イジワル上司に甘く捕獲されました
「……そんな風に思わせてごめん」

手を伸ばして私の髪に優しく触れる潤さんに。

私の気持ちが溢れ出す。

「……私の辞令はもう……決定なんだよね?」

恐々、口にした言葉を悲しそうな表情で潤さんが受け取る。

「……ああ、ごめん。
それはもう覆らない。
どうしても、元々の決まった着任期間があるから。
下手に時期をずらして俺が先に転勤になってしまったら、美羽をきちんと送り出すことができないし……美羽を一人、無責任に札幌支店に置いていきたくなかったんだ。
……心配だったから。
今回、美羽が異動して、俺が峰岸に後を任せて、俺は動く筈なんだ。
……美羽と同じ支店には異動できないならせめて近い支店に、業務に携わることができるようにしたくてさ。
だけど、俺に人事権があるわけじゃないし、支店長や色々な人に頼むしかできなくて」

「そっか……潤さんはいっぱい私のことを考えてくれていたんだね……」

「当たり前だろ?
美羽のことしか考えてないよ。
……美羽がいない札幌支店に勤務することが辛い」

私の頬に手を当てて私を真剣な表情で見つめる潤さん。

……ああ、そっか。

潤さんはずっと私を見つめてくれていたんだ。

不安や寂しさを伝えたら壊れてしまうって難しく考えずに素直に言えば良かったんだ。

……いつもそう。

いつも潤さんは私を一番に考えてくれていたのに。

自分の足元しか見えていない私の手を引いてくれていたのに。

いつから私はそれを見失っていたのだろう。

大好きだよ、って別れたりしないよ、って何度も口にしてくれていたのに。

その甘い言葉の中にある、潤さんの本当の覚悟や気持ちを私は気付かずにいたんだ。
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