イジワル上司に甘く捕獲されました
本来は辞令も、内々に出されるものがあって。

いくら遠方で転居を伴うもの、特別なプロジェクトのものといっても、平社員の私に、二週間以上も前に教えてくれるなんてことはあり得ない。

それを伝えてくれたのは潤さんを始め、支店長や皆川さん、皆が私のことを考えて尽力してくれていたからだろう。

私に落ち着く覚悟を、受け入れる時間をくれるために。

冷静に考えればわかる筈なのに。

潤さんがどれだけ私を大切に想ってくれているかなんて。

「……私が自分のことばかりを考えてしまってごめんなさい……」

「いや、何も知らされない美羽が一番不安だった筈なのに。
俺がもっと配慮できたら良かったんだ……」

思わず手を伸ばした私の腕を、立ち上がってグイッと引っ張って私を抱きしめる潤さん。

潤さんのお腹に私の頭が埋まって髪を撫でられる。

「……私、私、全然しっかりしていなくて。
潤さんに嫌われたらどうしようって、聞きたいことも伝えたいこともたくさんあったのに言えなかった……今みたいに毎日会えなくなって、離れたら潤さんの気持ちも離れていくんじゃないかって不安で。
私、自信がなくて。
潤さんが、潤さんみたいな素敵な人がどうして私を選んでくれたんだろうって……理由もずっと潤さんは言ってくれていたのに……信じる気持ちが揺らいでいた。
……別れようって言われたらどうしよう、言われるんじゃないかってそればっかりを考えていたの。
……私がいなくても潤さんは仕事もできるし、平気なんじゃないかって……私ほど離れることを悲しがっていないんじゃないかって……」

一気に吐き出す私の思い。

ドロドロだったり、行き場がないように感じていたけれど、きちんと真っ直ぐに受け止めてくれる人に伝えると温かくなる。

そんな人がいてくれる幸せを私は理解していた筈なのに。

……どうして見失っていたんだろう。

誰よりも潤さんが好きだとその気持ちに自信をもっていたのに。
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