イジワル上司に甘く捕獲されました
「……潤さんはいつも峰岸さんと一緒で。
前にも同じことを聞いて話したのに。
わかっていたのに。
峰岸さんの方が潤さんに近い気がして。
……どんどん悪い方にしか考えられなくて……私は峰岸さんみたいに有能じゃないし、感情をきちんとコントロールできていなくて。
大人な考え方も何にもできていなくてっ……」

気持ちを吐き出していく度に自分が纏っていた心の鎧が剥がれ落ちていく気がした。

きっとそれは。

潤さんの手がとても温かいから。

私を宝物のように抱きしめてくれるから。

潤さんの背中に両手をまわした時。

右手に触れた感触。

私をずっと守ってくれている指輪。

……ああ、そうか。

私はずっと彼の気持ちに守られていたのに。

こんなに簡単に手を伸ばせば抱きしめ返してもらえたのに。

私は何を恐れていたのだろう?

どうして自分ばかりが辛いだなんて思ったのだろう……誰よりも私を大切にしてくれている潤さんが辛くない筈はないのに。

「……私、余裕がなくて……潤さんの気持ちも考えることができなくてごめんなさい……」

小さく絞り出した答えに、潤さんがゆっくりと首を横に振る。

「……今、美羽を手離さずに済む方法はひとつだけ思い当たるんだ。
だけど、それにはまだ俺も美羽も覚悟も準備も足りないんだ。
……だから今は、そのためにも離れなきゃいけないんだ」

「……方法、がある?
何の……こと?」

潤さんのお腹から顔を離して見上げる私に。

やるせなさそうな表情を綺麗な顔に浮かべて。

優しく私の頬に残った涙を長い指で拭って。

「……今はまだ何も言えないんだ。
だけど、信じてほしい。
絶対に俺は美羽を手離さないから。
美羽もその覚悟でいてほしいんだ。
これから先、俺の俺だけの美羽でいて。
……他の奴を見ないで」

真剣な表情で私を見つめる潤さんに私はコクリと頷く。
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