イジワル上司に甘く捕獲されました
「橘さん、今日、五時から勉強会だからね。
それまでに現物片付けてね」

城田さんに言われて。

「はい、わかりました」

いつものように返事をする私。

私がこの支店に戻ってきて二ヶ月近くが経った。

私が札幌支店に赴任している間に異動した人、してきた人、係り替え等もあって。

最初の頃は物の配置等、少し右往左往していたのだけれど。

私が利用していた席や未処理箱等もきちんと以前と同じ様に保管してくださっていて。

城田さんや皆も私が不在だった間の業務内容や噂話や色々な話を教えてくれて。

私はスムーズに元の業務に戻ることができていた。

指輪は相変わらず、私のお守りになっていて。

毎日ネックレスとして服の下に着けている。

勿論ブレスレットも。

この二つが揃ってお守りになっている。

だけど。

やっぱり。

時折どうしても寂しくて。

顔が見たくて、声が聞きたくて。

お互い社会人だから、そう簡単には会うことはできない。

今になって横たわる距離の重さを実感する。

同じ国内でこんなにへこたれている私は。

海外で遠距離恋愛をしている人を本当に尊敬してしまう。

まだ二ヶ月しか経っていないのに、もう二ヶ月という気持ちで。

泣きながら電話をしてしまう私がいて。

その度に困ったような声で大丈夫、と言ってくれる彼の声は優しくて。

困らせたいわけではないのに、と。

慰めてほしいわけではないのに、と。

自己嫌悪に陥って、自分の弱さを思い知る。

潤さんは相変わらず出張も多く、忙しい毎日をこなしているみたいで。

帰宅が深夜になることもあるため、そう簡単に長話もできず。

労ることもできずに、迷惑をかけているだけのような気がして。

強くなる、と心に決めていても劇的に変わることはできずにいる。

そして、やっぱり不安と寂しさと堪える気持ちの堂々めぐりの日が続いていた。


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