イジワル上司に甘く捕獲されました
「……マジか……。
最悪」

言い捨てて、彼はさっさとエントランスをくぐって、マンション内に入っていく。

「ちょ、ちょっと……」

勝手に誤解して文句を言ってきて、最悪って……!

少しムッとしながら私もエントランスをくぐる。

マンション内に足を踏み入れた途端。

「……わぁ」

思わず声が漏れた。

初めて訪れた佐知子叔母さんのマンション。

お洒落でセンスの良い叔母さんのことだから、きっと素敵なマンションなんだろうなぁと予想はしていたけれど。

事前に真央から写真を見せてもらっていたけれど。

写真と実物はやっぱり違っていて。

高い天井に、革張りの応接セットが何組か置かれた広々としたロビー。

所々に飾られている花瓶や観葉植物。

広い通路にゆったりとした間接照明。

外観の濡れた砂の様な色合いとはまた違う、柔らかなクリーム色の艶消しをした床。

まるで何処かの高級ホテルのような雰囲気に私は圧倒される。

ひとしきり感動して、私は更に奥に進んでエレベーターに辿り着く。

叔母さんの部屋は六階。

エレベーター前の液晶モニターに映し出されているのはさっきの失礼な美形男性。

彼は七階で降りた。

……私の上の階なのね、と一人言を呟いて。

エレベーターに乗り込む。

エレベーターには彼の香水の残り香なのか、スッキリとした良い香りが漂っていた。

普段なら、うっとりして素敵な香りと喜ぶところだけど、さっきの一件があって私は眉間に皺を寄せる。

出来ればもう二度と嗅ぎたくない、と思いながら。





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