イジワル上司に甘く捕獲されました
「……お邪魔します」

今日から新しく自宅になった部屋に足を踏み入れて。

「よろしくお願いします」

と、誰もいない部屋に挨拶をする。

期待を裏切らない素敵な間取りと内装をひとしきり見て回って。

初めて見る二重窓を開けて、空気を入れ替える。

冷蔵庫には真央から、オートロックの解除方法、ゴミの出し方まで、細々としたマンションの決まりと私へのメッセージが貼られていて。

妹の優しい心遣いに気持ちが温かくなった時、エントランスからの呼出し音が鳴った。

室内の液晶モニターを見ると引っ越し会社さんの姿。

慌てて私は真央の冷蔵庫メモを片手にオートロックを解除して。

それからは流れ作業のように荷物の搬入が始まった。

慌ただしい作業の中で、失礼な美形男性のことはすっかり忘れていた。

引っ越し会社さんが引き揚げて、私はふうっと一息をつく。

大きな家具やおおまかなものの片付けは済んでいて、後は本棚の中身や化粧品、など細々した作業が残っていた。

ただ、既に真央が生活をしてくれているので、搬入時間は短くスムーズで。

何か飲みたくなっても、すぐに冷蔵庫から冷えたペットボトルを取り出せるし。

洗濯機もすぐに使えるし、快適だ。

山のように積み上がってきた空の段ボールは真央のメモを見ると、一階の決まった場所に出すようにとあったので、束ねて持ち出す。

一度には持てそうにないので何往復かすることに決める。

やって来たエレベーターに抱えた段ボールと共に乗り込むと。

……忘れていた彼がいた。


< 24 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop